平成31年4月

世の中は行為によって
成り立ち、人々は行為に
よって成り立つ

  『スッタニパータ』ブッダのことば№654岩波文庫  

 ゴータマ・ブッダ(釈尊)が登場した古代インドには、カースト制度と呼ばれる身分階級制度が存在していた。この制度のもと、人々はどの身分の家に生まれたのかによって生涯の身分が定められることになった。それは身分だけにとどまらず、その家の家業を継承することも含まれており、身分を替えることも、新たに仕事を選ぶこともできなかったのである。
そのような、人の生き方が束縛される社会に対して、ブッダは生まれで人の身分や価値が決まるのではなく、行為、すなわち何を考え、何を語り、何を行ったのかによって人の真実の価値が定まるのだと説いた。今月の言葉は、この点を明確に語るブッダの一連の言葉の末尾に登場する句である。
世の中の真実の在りようも、人々の本当の姿も、すべては行為によって決まる。2500年後の現代においても、私たち自身のあるべき姿をブッダは明瞭に示してくれている。今こそ、人と社会の在り方を考えなおす時期ではないだろうか。
(仏教学部教授 山極 伸之)

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