令和8年8月


『時節感当』    
                  『花鏡』

 能で、シテ(主役)が姿を現し、橋掛かりという舞台までの廊下のようなところで、 最初のセリフを口にしますが、そのとき演者は緊張するようです。世阿弥は、
  諸人のこころをうけて声をいだす、時節感当なり(『花鏡』)
と述べています。早すぎず遅 すぎず、観客 の こころの波を見計らい、ここというタイミングを見つ けて声を出すということです。その時節を少しでも逃してしまうと観客の心がゆるんでしまう、そのような時に謡い出しても、観客の心にピタリと重ねることはできないとも述べています たしか に、演者との波長が合っ たとき、観客の没入感は促進され、舞台はするすると進みます。こうした微調整があったからこそ、能は現代まで残ったのでしよう。世阿弥が、「 これはその日最も大事なこと」とまで語っているのも頷けることです。
 伝統芸能は、決まった型を繰り返す、退屈なイメージがあるかもしれません。しかし実際は、その時のベストを探りながら、よりよい舞台のためにプラッシュアップを重ねています。
 後世に残るものは、須くこうした努力を重ねています。

(文学部日本文学科教授 浜畑 圭吾)

『法然上人の絵物語』第十巻
(画:別科修了生 菊田水月)

第二段 後白河法皇に一乗円戒を授け、往生要集を講ず
 後白河法皇の招きを受けて、法然上人は法住寺の御所において法皇へ一乗円戒を授けられた。法皇はさらに延暦寺や園城寺の高僧も招き、順に『往生要集』を講じさせたが、なかでも法然上人の講義には深く感動し、涙を流されたという。
その後、法皇はますます上人の信仰を深め、藤原隆信に命じて上人の肖像画を描かせ、それを蓮華王院の宝蔵に納められた。

菊田 水月

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