令和3年6月

ゆく河の流れは絶えずして
しかももとの水にあらず


鴨長明『方丈記』 

 鴨長明は下賀茂神社の社家に生まれるが、兄弟との後継争いに敗れ 、後年五十歳で出家する。草庵を伏見区醍醐に構えて閑居生活を送った 。
この人口に膾炙した冒頭の段は、のどかな自然の情景と人の世のは
かなさを重ねて詠んだかのごとくである。しかし、続く段で描かれるのは、法然も遭遇したであろう度重なる天変地異である。また、平清盛が都を右往左往させた結末を憂い、天変地異と理不尽な遷都を、自らの人生に重ね合わせて嘆いている。
長明は数々の苦難を経て諦観の境地から方丈記を綴ったのか、それとも高貴なインテリゲンチャに許された生活の余裕が成せる業だったのか。最後の段で、人生を振り返ってはみたが、畢竟、自分が何者なのか分からなくなってしまい、ただ何となく南無阿弥陀仏を二度、三度唱えて、筆を置いている。
ただかたはらに舌根をやとひて不請の念佛、兩三返を申してやみぬ。
(社会学部教授 近藤 敏夫)

「四奉請」
(画:別科修了生 菊田水月)(製作協力:京都教区浄土宗青年会)

四奉請しぶじょう
奉請十方如来ほうぜいしほうじょらい 入道場散華楽じとうちょうさんからく        しょうたてまつ十方如来じっぽうにょらい道場どうじょうりたまえ。散華楽。さんからく
奉請釈迦如来ほうぜいせきやじょらい 人道場散華楽しとうちょうさんからく        しょうたてまつ釈迦如来しゃかにょらい道場どうじょうりたまえ。散華楽。さんからく
奉請弥陀如来はうぜいびたじょらい 入道場散華楽じとうちょうさんからく        しょうたてまつ弥陀如来みだにょらい道場どうじょうりたまえ。散華楽。さんからく
奉請観音勢至諸大菩薩ほうぜいかんにんぜいししょだいほさ 入道場散華楽じとうちょうさんからく    しょうたてまつ観音勢至諸大菩薩かんのんせいししょだいぼさつ道場どうじょうりたまえ。散華楽。さんからく
【この「四奉請」の出典は、法照神師の『浄土五会念仏略法事儀讃(五会法事讃)』本にあります。はじめに十方如来、そしてこの娑婆世界の教主である釈迦如来、極楽浄土に引接して下さる阿弥陀如来、そして観音・勢至・諸菩薩を請待するのに華を散じて、み仏方を道場にお迎えします。この偈文だけは古来より漢音で読まれています。】
(解説 宗門後継者養成道場長 稲岡 誓純)

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