令和6年3月

日本より頭の中のほうが広いでしょう


夏目漱石『三四郎』   

 『三四郎』は百年以上前に書かれた青春小説である。しかし、物語のおもしろさはもちろんのこと、登場人物たちの思考や行動、さらに作品を通底する社会への目線も、いまに通するところがある。故に、作中に名文も数多くあるが、この言葉もその一つである。主人公の大学生である三四郎が広田先生と会話をする場面での、広田先生の発言である。正確には、「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・・」で区切って、広田先生が三四郎の表情をうかがう描写の後に、「日本より頭のなかのほうが広いでしよう」、そして「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」と続く。
 私たちは、様々な前提条件や枠組みのなかで思考し行動している。それが求められるときもあるが、しかし当然のことと考えてはいけない。私たちの頭のなかは、現実の制約など軽々と飛び越えることができ、自分が思っているよりも、もっと自由で豊饒ほうじょうで可能性と創造性に満ちあふれているのである。

(仏教学部准教授 三好 俊徳)

『法然上人の絵物語』第五巻
(画:別科修了生 菊田水月)

第四段 禅と戒の立場を説く
 法然上人の智恵第一の名声は世間 にあふれ、多聞広学の評判は世の中に広まっていました。日本に伝来したとされる経典や伝記(こよ(目を通 さないものはなく、褝宗をも奥深く探求されていたのです。ある円頓戒談義の時、成覚房幸西に禅と戒につい て質問されますが、法然上人のお答えは神宗の立場をも深く理解されたものでした。そしてまた 、法然上人が禅宗について論じている自筆の書も伝わっていたということです。

菊田 水月

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