令和4年11月
我が知らざることには
必ず疑心を起こすことなり
法然上人『敕修御伝』
あるとき法然 上人は、後に天台座主となる顕真という僧侶に、「どうすれば苦しみの世界から抜け出せるか」という質問を受けました。法然上人 は「成仏して抜け出すことは難しいが、往生なら簡単だ」と答えました。その答えを聞 いた顕真は、「法然は智慧第一だそうだが、考え方が偏っている」と感想を漏らしました。それを聞いた法然上人がおっしやったのが、「〔人は〕自分が知らないことには、必す疑いの心を起こすものだ」ということばです。
私たちの周りには、多様な情報があふれています。自分の知らないこと、考え方と違うことも沢山あります。知らないことや聞きたくないことに出会ったとき、疑い、決めつけ、無視してはいないでしようか。
この話には後日談があります。顕真は法然上人の言葉を伝え聞いて自分の浅慮を恥じ入り、浄土教を百日間も勉強し、その上で改めて不明点を法然上人に質しました。
自分の知らないことに出会った際、疑うことは仕方ありません。重要なのは、その後のふるまいでしよう。
(仏教学部教授 曽和 義宏)
『法然上人の絵物語』第二巻
(画:別科修了生 菊田水月)
第三段 母との別れ
観覚は秀でた才能を持っ勢至丸を比叡山へ送り出すことにしました。そのことを母親に承諾してもらおうと、観覚は勢至丸を連れて母秦氏のもとへ行きました。愛する我が子との別れ、どうすることも出来ない悲しみに、母の涙は勢至丸の黒髪を濡らしました。
秦氏の承諾を得た観覚は、比叡山の源光に宛てて書状を書きます。そこには、たった一言、「進上、大聖文殊像一体」とありました。
菊田 水月