令和4年8月
一丈の堀を越えんと思わん人は
一丈五尺を越えんと励むべし
法然上人『敕修御伝』
一丈(約3メートル)の堀を飛び越えようと思う人は、一丈五尺(約4・ 5メートル)を飛び越えようと努力しなければならない、という法然上人の言葉です 。「常に仰せられけるおことば」の中に紹介されていますので、頻繁にロにされていたようです。
「できるだけ小さな労力・努力で、できるだけ大きな成果を得る」ことが正解であり、最上の価値があるという考え方があります。とくに生産性や経営については、この考え方に基づく計画や実行が推奨されているようです。
ある程度システムが成熟している場合は、このような見通しが 立つのかも知れません。しかし、世の中はそのように簡単に見通しが立つことばかりではありません。世の中で最も見通しが立たないのは、自分自身についてです。自分自身のことがよく分かっていないのに、3メートルびったりで問題ない、ということはできません。やはり成功するためには、より多くの努力が不可欠なのでしよう。
(仏教学部准教授 稲岡誓純)
『法然上人の絵物語』第五巻
(画:別科修了生 菊田水月)
第五段 父時国の遺言
時国は定明の夜襲で深い傷を負いました。今まさに死のうとする時、勢至丸少年を枕辺に呼びよせ、「敵を恨んではならない。恨みは尽きぬものだから、恨みはすみやかに消し去らねばならないのだ。仇を討とうなどと思わず、お前は出家をして私の菩提を弔っておくれ。」そう遺言をして、姿勢を正して西に向かって手を合わせ、時国は静かにこの世を去りました。
菊田水月